自分好みの1本を探す

ゲールズ プライズオールドエール

  • 極私的評価
4.1

今日は特別なビールを飲む。

20年前、ビアバーに勤めていた頃、22歳の誕生日に買ったオールドエールだ。

日本向けに輸出された物はラベルに10年熟成と書かれたこのビール。醸造していたのは今は無きゲールズ醸造所。

2005年にフラーズに買収され、2006年にはゲールズの醸造所は閉鎖。プライズオールドエールを含めいくつかの銘柄は今でもフラーズで造られているらしいが、今現在日本で買うことは難しいようだ。

その入手困難なプライズオールドエールだが、僕が20年保管していたものは2001年醸造の物。つまり本物のゲールズプライズオールドエールだ。

正直20年のうち半分以上の期間はまともな保管状態に無かった。当時はこれ程貴重な物になるとも思っていなかったし、ビールを勉強する事自体していなかった。

当時は身体を壊し、飲食業で仕事をする事が難しくなって、もちろんビールの仕事は出来なくて、その辛さから、ビールそのものから目を背けていた。

だから、きちんと保管してはいなかったが、しかし捨てることもなかった。

どこか、このビールを持ち続けている事で、ビールとの繋がりがあるように思っていたところもあるかも知れない。

オールドエールは10年熟成出来るという事だが、ピークは20年という説もある。何年か前から、ちょうど20年になる今年の誕生日に飲む事を決めていた。

残念ながらおそらくビールの状態は良くないだろう。

ここ3年くらいは12度前後で保管していたが、それ以前にダメージを受け過ぎているはずだ。もしかしたら駄目になっているかも知れない。

だが、ゲールズ醸造所で醸造されたプライズオールドエール。その20年もの。とても貴重である事に変わりはないし、僕にとっては何にも代えがたい思い出の一本だ。

大切に、心して飲もう。

チョコレート様の濃く甘い香り。干しぶどうの様な香り。熟成ビール独特の少しくすんだ香り。

口に含むと不思議な感覚に陥る。保管状態が悪かったので劣化もあるだろう。そして、もしかしたらピークも過ぎてしまっているかもしれない。しかし、それにしても、なぜ熟成前の若いビールの様な印象を受けるのだろう。

香りは確かに濃い。なのに味わいは反対だ。穏やかを通り越して、人間で言うとまるで最期を待つだけの、そんな、時間が止まった様な、それくらいの静かな味わい。

炭酸が完全に抜けている事もあるだろう。とにかく静かなビールだ。

そして、今、ほんの少しずつ飲み進めて、10口を越えたあたりだろうか、だんだんと口がこのビールに慣れてきたのか、時間が経って少しビールの温度が上がったからだろうか、馴染んできたとでも言おうか。

少しずつ美味しいと感じるようになってきた。

ここでチーズと合わせてみる。今日はこの為に熟成のゴーダチーズだ。穏やかで深みのある味わいでこのビールにちょうど良い。お互いの穏やかな部分が調和する。

次は干しぶどうだ。ビールのアロマにも現れていた香りだから合うだろう。

合わせてみて驚いた。干しぶどうの甘みにビールが引き合ったとでも言おうか。あれほど穏やかだったこのビールが、急に力強さを取り戻した様な豊潤な味わいに変化した。

たまたまペアリングが良かったのだろうが、これほど静かな印象だったビールがペアリング次第でここまで表情を変えるとは、驚きだった。

熟成ビールを飲む時はよくある事だが、はじめの何口かは正直抵抗があった。だが今、一本飲み終わる頃にはすっかりこのビールを好きになってしまっている。

しかしこのビールには二度と出会う事は無い。この先プライズオールドエールを飲む事があっても、たとえそれが20年物であっても、このビールと同じ味わいである事はありえない。

もうあと何口かで終わってしまうが、今はこの幸せを嚙みしめよう。

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